学校給食は必ず変えられる
学校給食はパン食よりごはん食がいいー1
「学校給食の仕組み」
1.はじめに
私は1年間、献立作成委員会の委員に就任する機会を得ました。献立については全くの素人でしたので、当委員会で献立について意見を述べることができるよう学校給食や食生活に関する書物を読みあさりました。そのうちに学校給食について理解を深め課題が見えてきましたので幾度か問題提起しました。しかし一度も献立に生かされたことはありませんでした。その体験などを踏まえて3回にわたり学校給食についての私の考えを述べたいと思います。
2.学校給食の基本的仕組み
学校給食の提供には経費がかかります。その経費をだれがどれだけ負担するかが基本になります。表1に見られるように設備費や人件費は市が負担し、食材費は保護者が負担するとなっています。その保護者負担が給食費として算定根拠になるものです。
次に食べ物ですから安全・安心できるもので、適切に栄養摂取できるものを提供することが求められます。そのため学校給食は学校給食衛生管理基準や学校給食摂取基準などに基づいて実施しています。
(表1) 学校給食の提供の基本となる法的根拠
項 目 法的根拠 内 容
経費負担 学校給食法第11条 設備費・人件費:市が負担
主に食材費:保護者負担(給食費)
衛生管理 学校給食法第9条 学校給食衛生管理基準
栄養管理 学校給食法第8条 学校給食摂取基準
献立作成 文部省体育局長通知
(昭和60年1月21日) 教育委員会が実施
3.学校給食の提供方式
学校給食の調理方法として、各学校に調理室がある自校調理方式と、学校とは別に調理場を設置し複数の学校に給食を配送する共同調理方式があります。
神戸市の小学校(特別支援学校含む)の場合、自校調理方式は148校、約74千人に提供し、共同調理方式は調理場2箇所の合計で24校、約10千人に提供しています。
また、この共同調理方式2箇所については平成14年4月から外部委託方式をとり、外部委託にして10数年経過しています。全国的な調理業務の外部委託の推移を見ますと、平成10年に8.3%であった公立の小・中学校の外部委託は、平成24年には35.8%と増加傾向にあります(文部科学省「学校給食実施状況調査」)。
共同調理場の役割は、美味しい学校給食を安全安心かつ安定して提供することです。つまり、安全安心とは衛生面において十分に配慮したものを提供すること。安定とは施設や設備などの維持管理をきちんとし突然厨房施設が使用不能に陥らないようにすることや共同調理場から受配校に給食を確実に配送することです。その役割を果たすために受託者と車の両輪となって取り組んでいました。
4.学校給食の流れ
献立作成から給食配送までについて説明します。但し、給食業務の一部です。調理業務などについては、「学校給食業務の運営の合理化について」(昭和 60 年1月21日付け文部省体育局長通知)により民間委託ができるようになりました。 しかし献立作成については教育委員会が直接責任をもつて実施すべきものとなっています。そのため、献立原案作成委員会(担当の栄養教諭が案を作る)の献立原案をもとに、献立作成委員会(委員には保護者や学校関係者などが参加)で献立が決定されます。学校給食運営委員会は、各区の担当校長などが献立作成委員会で決定した献立内容に基づいて全体の量・予定金額を計算した食材の購入計画を承認することになっています。
調理業務等を受託した事業者は、与えられた献立と栄養教諭が作成した調理に関する指示書に基づき、与えられた食材(醤油などの調味料も含む)を使って調理をします。その後、学校別クラス別に食缶に配缶しコンテナに入れ給食配送業者の専用車に積み込んで各受配校に配送します。なお、共同調理場長や校長は、給食による事故を未然に防ぐことを目的で児童に給食が提供される30分前に検食、いわゆる毒見をします。学校給食衛生管理基準の規定によるものです。
献立作成や調理は一言で言えば、栄養教諭主導で進められています。他の自治体の学校給食の提供も実情は同様だと推察されます。そのことを踏まえないと完全米飯給食への転換を図ることはできないと思うに至りました。
(つづく)
学校給食はパン食よりごはん食がいいー2
「学校給食法と献立作成の意義」
1.学校給食の現場
小学生の子を持つ今の親世代の学校給食はパン食です。そのためかごはん食を中心とした和食が家庭から消えつつあります。例えば、半世紀で味噌は約41%に、醤油は約46%と和食の定番である発酵食品の消費が年々減少しています。
家庭で和食を食べる機会が少ないこともあり学校給食の現場では、ひじき料理等の伝統的な食材を使った献立は嫌われ、ミンチカツ等の揚げ物や、焼きそば等の麺類、ファーストフードまがいのセルフドッグが好まれるのが実態です。
2.学校給食法と献立作成の意義
公務員は法令に基づいて仕事をすることが求められます。栄養教諭を含め学校給食に関わる者は学校給食法(以下「給食法」という)に基づいて提供しなければなりません。給食法には第1条に目的規定があります。目的規定は、法律がどのような方法でどのようなことを実現したいかをまとめたものです。
給食法第1条(この法律の目的)・第2条(学校給食の目標)が、食育という観点から制定後初めて平成21年4月に改正されました。また改正に合わせ同年3月に「学校における米飯給食の推進について」という文部科学省の通知(以下「通知」という)が出ました。通知では、週3回未満の学校等においては週3回程度への実施回数の増加を図り、週3回以上の学校等おいては週4回程度などの新たな目標を設定し、米飯給食の実施回数の増加を図るようにとなっています。法の根本をなす条文の法改正ですので、その経緯などを踏まえれば本来、献立の作成も大転換されるべきです。ですがその転換は見られません。現に神戸市の場合、平成19年から週3回の米飯給食をしていますが、献立の内容の変化も、通知を踏まえた米飯給食の実施回数の増加の動きもありません。
3.献立作成の現状と「学校給食の目標」との関係
献立の作成は、法の目的・手段の階層性からみて上位の目的である給食法第2条を前提とすべきです。給食法第2条の7目標のうち表2の下線をした3目標は、献立作成に特に欠かせない、かつ具現化できる目標です。そしてその3目標の具現化に最適な学校給食は、完全米飯給食です。
ところが具体的な献立の作成では、上位の目的・手段レベルを視野に入れて献立を作成すべきところを、下位の目的・手段レベルで作成しています。つまり保護者が負担する給食費をもとにその予算の範囲内に収まる食材を選び、適切に栄養摂取できるものを「学校給食摂取基準」に照らしながら作成しています。
週3回の米飯給食でも郷土料理や行事食を提供しており、表2の「六」の目標は完全米飯給食でなくてもできていると恐らく主張するでしょう。しかし、パン食ではなくごはん食だからそれができるのであり、また3目標を同時に実現できるのもごはん食だからこそです。そして日本で唯一自給できるお米を日本人が昨今食べなくなったことを直視し、パン食主体の学校給食がこれまで果たしてきた意味を振り返れば、完全米飯給食によって家庭において和食を食べる機会が増えることで、表2の「六」の目標が生かされたといえるのです。
<表2> 学校給食法第二条(学校給食の目標)の概要
一、適切な栄養摂取による健康の保持増進を図ること
二、望ましい食習慣を養うこと
三、明るい社交性・協同の精神を養うこと
四、生命・自然を尊重する精神や環境の保全に寄与する態度を養うこと
五、勤労を重んずる態度を養うこと
六、伝統的な食文化についての理解を深めること
七、食料の生産・流通・消費についての理解を深めること
(つづく)
学校給食はパン食よりごはん食がいいー3
「「伝統的な日本の食事」と学校給食の栄養バランス」
1.学校給食における主食の意味
食生活指針(H13年策定)に「主食、主菜、副菜を基本に、食事バランスを」という指針があります。そのバランスの中核は主食です。学校給食の主食がパンからごはんに変わると、副食の献立は自ずとその内容が変わります。違いをまとめると、一つは和食の基本である出汁がごはん食では反映できるが、パン食では反映できない。二つはパン食では魚介類や藻類を使った献立はなじまないが、ごはん食はなじむ。三つはごはん食であれば郷土料理や行事食の提供ができるが、パン食ではできない。四つはパン食では高脂肪・低でんぷんの食生活を嗜好する、脂肪の多い献立になりやすいことです。
2.「食事の欧米化」と「伝統的な日本の食事」
ごはんを主食にした「伝統的な日本の食事」は、世界的に健康食として高い評価をうけています。その対極の食事が「食事の欧米化」です。両者の食事内容を簡潔に対比すると次のとおりです。
A:食事の欧米化:高カロリー、高タンパク質、高脂肪、低でんぷん等(注1)
B:伝統的な日本の食事:低カロリー、低タンパク質、低脂肪、高でんぷん
(注1)「食事の欧米化」には、上記以外に高精白、高砂糖、食物繊維不足がある。
「食事の欧米化」は、生活習慣病を引き起こす食生活を指します。それによって生じる様々な病気を予防するためには、Aの危険性を子どものときにしっかりと食育をし、Bの献立を「生きた教材」として提供すべきです。
3.「伝統的な日本の食事」と学校給食における栄養バランスの実情
「伝統的な日本の食事」は栄養バランスに優れているといわれていますが、いつの時代の日本人の食生活を指すのかによって栄養バランスの考え方は異なります。表1のPFC比率のうち炭水化物(C)の比率の推移をみますと、減少傾向にあり平成22年には60%を割っています。一方脂質の割合は増加傾向にあります。
農水省は、表1のPFC比率②に示す食生活の栄養バランスが優れていると説明しています。一方1977年のマクガバンレポートでは、健康的な食事なら病気にはならないとして、アメリカ国民に20世紀初頭の食事、つまり高でんぷん食にもどれと提言しています。高でんぷん食とは、日本では昭和40~50年代の65%~70%までの食事(表1のPFC比率③、④)が高でんぷん食であり、この時代の食事が上述のBに該当すると思います。
表1 PFC熱量比率でみる栄養バランス
学校給食における栄養バランスはどうか。学校給食摂取基準(以下「基準」という)の活用の手順をみますと、エネルギー及び栄養素の優先順位をエネルギー→タンパク質→脂質の順としています(「すこやか情報便」[第15号平成25年発行、(公財)学校給食研究改善協会])。ところが、「基準」には三大栄養素である炭水化物の項目がありません。当然その手順もありません。そのため表1のように「基準」の炭水化物の摂取割合が60%以下と低でんぷんとなっています。そのことが甲欄の栄養素等摂取状況に見られるように、農水省が推奨する栄養バランス(表1の②)と比べても「食事の欧米化」に類した学校給食の献立になっています。
ですから栄養バランスの悪い「基準」の設定の下で学校給食において上述のBの献立にするためには、でんぷんをしっかり食することができる、ごはんを主食にした給食しかないのです。
4.おわりに
日本の野菜摂取が減少傾向にある中で学校給食における野菜の摂取は、近年増加傾向にあります(表2)。
「表2 主食の摂取量と野菜類の摂取量の推移」
その理由は、米飯給食の実施校数の増加に伴い、主食のごはんに合う献立が増えたことによるものと思われます。つまり、米飯給食への転換の効果が表れているといえます。以上の如くデータに基づいて米飯給食の良さを明らかにできればと思います。
飯給食への転換の効果が表れているといえます。以上の如くデータに基づいて米飯給食の良さを明らかにできればと思います。