コラム
子どもの食事連載(長野の雑誌『ほっとパルより)
①運(うん)の良くなる食生活
謹賀新年
明けましておめでとうございます。早いもので、『ほっとパル』の連載も三年目を迎えることになりました。今年も宜しくお付き合いください。
新しい年ですから、「運」の良くなる食生活について書きたいと思います。ただし、運と言っても多少、臭いのある「ウン」のことです。
皆さんの日々の食生活は「運」が良くなるものになっているでしょうか?それは、ほとんど便(たよ)りでわかります。文字通り、便にでていると言っていいと思います。
母乳で赤ちゃんを育てたお母さんは覚えているはずです。おしめを取り換える際、鼻をつまんだことはほとんどなかったのではないでしょうか。臭いがきつくないからです。山吹色と言うべきでしょうか。きれいな黄金の色をしています。お尻をふくのも簡単です。母乳だけを飲んでいる赤ちゃんの便は、善玉菌だらけで、悪玉菌がほとんどないからです。
保育園、幼稚園児くらいの年齢になって、トイレに入っても大か小かわからないはずです。何しろ、パンツを下すのが早いか、ウンチが出るのが早いかわからないくらい短時間で出てきます。お尻をふくにもトイレットパーパーはわずかしか使いません。子どもの後にトイレに入っても、臭くないので大か小かわからないものです。まさに、運の良くなる食生活をしているからです。
それに比べて、お母さんたちはどうでしょうか?トイレで、演歌を歌っているのではないかと思うほど、いきんでいないでしょうか。時間も長くなり、和式のトイレでは足がしびれてしまう人もいるかもしれません。そのような人は、自分の便の臭いに耐えられず、トイレの香水をばらまいていることでしょう。トイレットパーパーも、縁日のはつかねずみが回転しているかのように、カラカラと音を鳴らしながら、たくさん使っているはずです。それだけお尻が汚れているということです。それは、悪玉菌が多くなっているからです。そのような女性の口癖は、「運(うん)が悪い」です。それは運が悪いのではなく、食生活が悪いからです。
リレーエッセイ意見異見
タイトル:今こそ「完全米飯給食」を
著者:幕内秀夫
新型コロナウイルスの影響で外食需要が減少したことにより、例年にも増して「米余り」が進んでいます。そのため米の価格が落ち込み、稲作農家の中には栽培の継続をためらう人が出てきているといいます。稲作農業は食料を生産しているだけではありません。例えば、水田は雨水を一時的に貯留して洪水や土砂崩れを防いだり、多様な生き物を育んだり、また、美しい農村風景として私たちの心を和ませてくれるなど、大きな役割を果たしています。稲作農業を守るために、国は早急に対策を考える必要があるでしょう。
ただし、「米余り」は新型コロナウイルスに関わりなく、長期的な問題だということを忘れてはいけないと思います。最大の問題は、減少し続ける消費量です。そして米の消費が減った最大の原因は、輸入小麦粉を中心としたパン、パン生地を使ったハンバーガーやピザ、ドーナッツなど、あるいはラーメンやパスタ、インスタントラーメン、焼きそばなどの消費が増えたことにあります。中でも最大の変化はパン食が増えたこと。これに異論を唱える人はいないでしょう。
世界中を見渡しても、「主食」がここまで変化した国は恐らくないでしょう。なぜ、半世紀余りでこんなに変わってしまったのか。最大の理由は、成長期の子どもたちに「教育」という名の元、パン給食が実施されてきたことにあります。私(1953年生まれ)の小学校時代の給食はすべてパンで、米飯は一度もありませんでした。
学校給食は「生きた教材」と呼ばれてきました。その影響で、米飯からパン食に変えた家庭も少なくありません。私の小学校時代は、食糧事情もよくありませんでした。「欠食児童」という言葉が残っていた時代です。パン給食も仕方なかったのかもしれません。しかし今や、農業関係者の努力によって「米余り」が起きるほどになりました。当時とは状況が違います。いつまでパン給食を続けるのでしょう。
学校給食は基本的に、人件費や光熱費などは自治体、食材費は父母が負担しています。当然、児童の父母には稲作農家もいるはずです。給食には稲作農家たちの税金も使われているにもかかわらず、子どもたちは輸入小麦粉を中心としたパン給食を食べています。こんなおかしな話がいつまでも続いていいはずがありません。
なんとかしなければならないと考え、98年に「学校給食と子どもの健康を考える会」を発足、完全米飯給食を勧める運動を開始しました。会を立ち上げて20年が過ぎ、父母や医療関係者、教育関係者、あるいは農業関係者の協力を得ることで、全国に完全米飯給食を実施する自治体、あるいは米飯給食が増えた小中学校は数え切れなくなっています。保育園や幼稚園でも増えています。
一方、私たちが完全米飯給食を求めたのは、農家や農業のためだけでなく、子どもの健康問題をどうにかしたいという目的がありました。もし、私たちの運動が「稲作農業を守る」ことを第一にしていたら、ここまで増えることはなかっただろうと思います。例えば、学校給食に米飯給食の導入を検討する際に、「学校給食は余剰農産物の処理のためにあるのではない」という反対の声が上がることも少なくありませんでした。今や常識ですが、日本のパン給食は、膨大な余剰小麦の行き先に困っていたアメリカの「援助」で始まりました。アメリカの余剰小麦粉は受け入れ、日本の米には反対する。非常におかしな話だと思いますが、そういう声もあったのです。
文科省によると、18年度現在、米飯給食の週当たりの平均実施回数は3・5回で、10年前(08年度)の3・1回と比べると着実に増えてきました。まだまだ充分ではありませんが、私たちの活動がいくばくかでも貢献してきたと考えています。
ただし、子どもの生活習慣病増加という問題は今なおあります。世界的な規模で見ると、今や飢餓で苦しむ子どもたちよりも、肥満や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病で苦しむ子どもたちのほうがはるかに多くなっているのです。さまざまな要因が考えられますが、最大の問題は「エンプテイー・カロリー」だというのが世界共通の認識になりつつあります。
エンプテイー・カロリーというのは、「栄養がない」「からっぽ」という意味です。食品には、さまざまな栄養素が混在しています。たとえば、米飯には炭水化物だけでなく、食物繊維や水分の他、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が含まれています。
ところが、精製された砂糖(白砂糖・異性果糖など)は、ほぼ100%炭水化物で、他の栄養素はほとんど含まれていません。精製油脂も同じです。脂質100%という、自然界ではありえない成分構成です。これらは、カロリーは取れても食物繊維や微量栄養素が摂れないことから「からっぽ」と呼ばれています。
欧米の肥満先進国では、すでにその是非を議論する時代を通り越して「砂糖税(ソーダ税)」あるいは「脂肪税」の導入が進んでいます。課税してまで消費を減らそうとしているわけです。ただし、それほどうまくいっていません。間食や副食だけでなく、パンや麺類などの主食にも精製糖や精製油脂が含まれているので、摂取せざるをえないのです。
日本や韓国で欧米ほど肥満が深刻になっていないのは、ご飯(米飯)という主食があるから。間食や副食に精製糖や油脂類がどれだけ増えたとしても、主食に含まれていないことが大きいのです。
しかし、米の消費がここまで減ってパン食が増えると、肥満大国の欧米と同じ道を辿ることは明らかです。肥満や糖尿病などの生活習慣病を予防するために、小中学校で血液検査をする自治体は増えています。喜べる話ではありませんが、米飯給食が増えた要因の一つには、そうした問題もあるのです。
もはや、「米余り問題」を早急に解決する特効薬はないでしょう。ただし、学校給食を食べている子どもたちは約1000万人もいます。給食の主食をすべて米飯に切り替えれば、かなりの消費拡大効果があると思います。稲作を守ることは、子どもたちの健康を守ることに繋がります。子どもが大きくなって、学校給食とはすでに縁がないという方も、お孫さんや地域の子どもたちが学校で何を食べているのか、関心を持っていただきたいと思います。
プロフィール:まくうち ひでお
1953年茨城県生まれ。東京農業大学農学部栄養学科卒業。専門学校の講師を務めた後、伝統食と健康を研究。フーズ&ヘルス研究所主宰。学校給食と子どもの健康を守る会代表。ベストセラーとなった『粗食のすすめ』(新潮文庫)の他、近著に『医・食・農は微生物が支える 腸内細菌の働きと自然農業の教えから』(姫野祐子氏との共著、創森社)など著書多数。