コラム

『明日への選択』聞き書き連載

「糖質オフ」に騙されるな

【第4回】


「食の工業化」に巻き込まれる現代社会

 ■幕内秀夫氏への聞き書き連載第四回。糖質制限食を推奨する人たちは、肥満の原因は「脂質」ではなく「糖質」だと主張する。

 しかし、幕内氏は本当の問題は糖質か脂質かではなく、「食の工業化」という重大な問題にあると指摘する。
 今回は糖質制限食の危険性に続き、この「食の工業化」という新たな問題について聞いた。

若い女性はダイエットしてはならない

 幕内 これまでお話したように、戦後はごはんのイメージが意図的に貶められて行ったわけですが、いつ頃からか、その土壌の上に、モデルのような体型に憧れる女性が増え、様々なダイエット法が流行するようになりました。その中で間違ったダイエットとして「ごはんを抜くこと」を実践する女性が沢山出てきました。さらにそこに糖質制限食ダイエットが登場し、ますます拍車がかかっているのが今の状況です。
 私が『世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」』を書こうと思ったのは、ある日、電車に乗っている時に聞こえてきた、こんな会話が直接的な動機でした。
 「わたしね、ごはん抜いてるの。それで体重が減ったのよ」
 「えっ?」と思って振り向くと、それはランドセルを背負った女の子だったんです。もう本当に、背筋が寒くなりました。
 私はもうかれこれ三十年以上病院で食事指導をしてきました。近年、相談に来られる方で多いのは乳がんや不妊症の方ですが、不妊症の方に話を聞いてみると、若い時にダイエットで失敗した経験を持つ人がものすごく多い。しかし、他の病気ならばともかく、身長を伸ばすとか、子供を産む体を作るというのは、ある年代でしかできません。
 女の子から女性への成長期には、ほかの年代にも増して十分な栄養が必要です。エネルギーもしっかり摂らないといけない。特にこの時期は将来子供を産むために必要な様々な栄養素を体に蓄える最重要期で、ダイエットは一番やってはいけないことなのです。
 そうした重要な時期に、もし「糖質をとらない」という選択をしてしまったら、最悪の場合、子供の産めない身体になってしまうかもしれません。大人になってから、若い頃に流行のダイエット法に惑わされたことを後悔しても遅いのです。
 糖質制限食ダイエット自体は、これまでのダイエットと同様に、何年か経てば消えて行くかもしれません。林博士の『頭脳』のように、「そんなトンデモ本もあったね」と笑われるだけかもしれません。しかし、女性の体への悪影響は、決して笑って済ますことはできないのです。

自然界に存在しない食品

 ―― 話は変わりますが、最初に(第一回)、今は「食の工業化」という重大な問題に直面しているというご指摘がありました。「食の欧米化」というのはよく聞きますが、「食の工業化」とは耳慣れない言葉です。いったい、どういうことなのでしょうか。
 幕内 順番に話しますと、まず「食の欧米化」とは、日本人がもともと食べてきた伝統食から、パン、ハンバーグ、ピザ、パスタなど欧米風の食事を沢山食べるようになったことを言います。一方で、それと並行するかのように糖尿病やがんなどの病気が増えてきたことから、そうした食生活の変化が原因になっているのではないかと言われてきたわけです。私自身もパン、ハンバーガー、ピザなどを「カタカナ主食」、ごはんを中心とする日本の伝統食を「ひらがな主食」と呼び、「食の欧米化」についていくつかの書籍で問題点を指摘してきました。
 従来はそれでもよかったんです。というのは、少し前まで私たちが口にする食べ物は、田んぼや畑、海、川、山などでとれるものがほとんどでしたから。つまり、米、野菜、魚、肉、きのこなどの「農林水産物」を食材として調理して食べる、それが普通でした。
 ところが、現在私たちが口にする食べ物は、自然のものではなく、工場で製造されたものが非常に多くなっているのです。
 例えば、二〇一一年の総務省家計調査によると、わが国ではパンの購入金額がついに米の購入金額を上回ってしまいました。しかし、そのパンは何で出来ているかご存じですか。
 パンの原料は小麦です。小麦は大きく分けると、表皮、胚乳、胚芽からできています。それらを丸ごと粉にしたものが「全粒粉」と呼ばれ、昔はこれがスタンダードでした。しかし、現在一般に出回っている「小麦粉」は胚乳の部分だけで作られ、ビタミンや鉄分など様々な栄養素が含まれる表皮や胚芽は、工場で精製されて全部捨てられているのです。
 また、現代の食品の多くは砂糖や油脂がたっぷり含まれていますが、その砂糖や油からして、実験室の薬品と同じ、自然界には存在しない特殊な成分となっています。
 砂糖はもともとサトウキビや甜菜などを原料として生産されていました。自然のものを原料としていますから、水分、糖分、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など様々な栄養素が含まれています。だから、色も黒くて「黒砂糖」とも呼ばれる。しかし、現在一般的に出回っている「白砂糖」は、苛性ソーダなどの薬品を使って「黒砂糖」を精製し、糖分以外の栄養素を全部削ぎ落としたもので、「糖質一〇〇%」のきわめて特殊な成分となっています。
 そして、この白砂糖よりもっと特殊なのが、清涼飲料水などによく使われている「異性化糖」(ショ糖型液糖)です。異性化糖はほとんどがトウモロコシを原料に造られますが、トウモロコシをコーンスターチにしてブドウ糖を生産する際、表皮や胚芽は取り除かれます。表皮や胚芽にはビタミン、ミネラルなど様々な栄養素が含まれていますが、それらは捨てられてしまい、その結果、白砂糖と同じく「糖質一〇〇%」という自然界には存在しない特殊な成分になっているのです。
 一方、油もこれらと同様に、現在出回っている食用油の多くは「脂質一〇〇%」の工業製品です。昔の食用油はゴマ、菜種、ピーナッツなどから「圧搾法」という方法で搾り出して造っていたので、脂質のほかにビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素が含まれていました。それが、化学薬品を使って原料から効率よく搾り出す「溶媒抽出法」が開発された結果、人間の体に必要な成分はカットされるようになってしまいました。
 このように、今私たちが食べているものの多くは、もはや「食品」と言うより、「工業製品」と呼んだ方がいいものになっているのです。

「精製された食品」の危険性

 ―― そのようなものを沢山食べても大丈夫なんですか。
 幕内 大丈夫じゃないですよ。トウモロコシと、トウモロコシを精製して造る異性化糖との比較で見てみましょう。
 まず、自然界に存在するトウモロコシは、主成分がデンプンで、ブドウ糖が鎖状に繋がって構成されています。これが体内に入った時にどういうふうに吸収されて行くかというと、体内の消化酵素がデンプンの鎖をカットすることでブドウ糖に分解し、それで初めて吸収されてエネルギーに変わります。従って、消化吸収までに一定の時間がかかります。
 それに対して、「精製された糖質」である異性化糖の構造は、デンプンの鎖を工業的にカットしたもので、体内に入る前にすでに分解されています。従って、体内に入った途端に吸収されます。非常に吸収が早いため、とりすぎると体内の血糖値が急上昇します。すると、体は危険を察知して血糖値を下げようと、膵臓から大量のインシュリンを分泌します。これをしょっちゅう繰り返してゆくと、しまいには膵臓が疲弊してしまい、インシュリンがうまく分泌できなくなる。その結果、体内の血糖値がコントロールできなくなって糖尿病になってしまうのです。
 ―― 恐ろしいですね。
 幕内 「精製された脂質」も同様です。「脂質一〇〇%」ですから、少し使っただけでも、すぐに脂質のとりすぎになってしまいます。
 皆さんは、サーロインステーキやマグロのトロというと、かなり脂がのった食べ物だと思っているでしょう。でも、これらの脂質は三〇%程度なんですよ。
 ―― 意外に少ないんですね。
 幕内 なぜかといえば、肉にしても魚にしても卵にしても、自然界に存在する食べ物には水分が六〇%~七〇%含まれているからです。人間の体の六〇%が水でできていることを考えれば別に不思議ではないでしょう。肉や魚それ自体に含まれる脂質はその程度なのです。だから、「焼き肉食べ放題」の店に行って、他の食べ物や飲み物を一切とらずに肉だけを大量に食べるようなことでもしなければ、それだけで簡単に脂質過剰になることはありません。また、実際にそんな食事を毎日のように続ける人は滅多にいないでしょう。
 しかし、「精製された脂質」は同じ重量でも、自然界に存在するものの三倍から五倍の脂質摂取になってしまうのです。
 ―― それだと簡単に太ってしまいそうです。
 幕内 ええ、私はこうした「精製された食品」を大量に摂取することが、肥満や生活習慣病の大きな原因になっているのではないかと考えています。なぜなら、「精製された食品」はまさに精製されているがゆえに、体の中できちんと燃えないのです。カロリーを十分に取っていても、それをきちんと燃焼させるためには、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素や食物繊維などが必要となります。しかし、「精製された食品」には微量栄養素も食物繊維もほとんど含まれない。だから不完全燃焼を起こすのです。
 東日本大震災以降、石炭を使った火力発電が増えていますが、石炭を燃やすときに、空気がなければ不完全燃焼を起こすのと同じ原理です。石炭にあたる肉や油や砂糖をたくさん体にとりいれても、空気にあたるビタミンやミネラルが不足しているからきちんと燃えない。多少燃えたとしても、エントツにあたる食物繊維が不足しているから要らないものが排出されずに体の中に溜まって行く。その結果が肥満ということです。

 

現代の食品は何で出来ているか

 幕内 厄介なのは、「精製された食品」は、私たちが日常的に食べているものの中に沢山含まれていることです。
 「精製された糖質」である異性化糖は、清涼飲料水やシロップにとどまらず、お菓子や調味料をはじめ、様々な食品に広く使われるようになっています。また、「精製された脂質」である食用油は、目玉焼き、ソーセージ、唐揚げなど身近なものを挙げるまでもなく、ありとあらゆる料理に使われています。
 さらに重要な問題は、今はこの二つがタッグを組んだ食品で溢れているということです。食パン、菓子パン、ハンバーガー、ホットドッグ、パスタ、ピザ、ワッフル、クレープ、パンケーキ、ドーナツ、カップ麺……コンビニに行けば必ず置いているこれらの食品は、それぞれに大量の「精製された糖質」と「精製された脂質」が同時に使われています。
 こうした食品の主成分は小麦粉などのデンプンであり、さらにマヨネーズ、ケチャップ、ソースなどの調味料が使われています。それらの調味料もまた「精製された糖質」が多く含まれていますから、デンプンと砂糖の「糖質+精製された糖質」、あるいはデンプンと食用油の「糖質+精製された脂質」となってしまうわけです。
 さて、これが現代の食品の実態ですが、こうした食品を沢山とることは「脂質のとりすぎ」と言うべきでしょうか、それとも「糖質のとりすぎ」と言うべきでしょうか。どう考えても、糖質と脂質の両方をふんだんに摂取するようになっているのが現代人の食事です。
 これまで健康やダイエットを語るとき、「食生活が欧米化したために脂肪をとりすぎるようになった」とか、「糖質のとりすぎで生活習慣病のリスクが高まる」といった点ばかりが話題にされてきました。私自身も、欧米化した食生活の問題点を取り上げてきました。しかし、もうその段階は終わった、と考えています。現代の日本の食生活は、いまやそれ以上の大きな問題を抱えている。それが、精製された食品(工業製品)を食べているということです。
 毎日食べるものが実験室で作られるようなもので多くを占めるのは人類史上初めてのことです。この「食の工業化」という未曾有の問題に、現代社会に生きる私たちはみんな巻き込まれてしまっているのです。

 

やめられない止まらないドラッグ食の脅威

 ―― 「食の工業化」はまだ誰も気付いていない問題だけに、却って恐ろしいですね。
 幕内 そうなんです。「食の工業化」がもたらす影響で特に注意を喚起しておきたいのは、「精製された糖質」と「精製された脂質」がタッグを組んだ食品には、「クセになる」「やみつきになる」という大きな特徴があることです。
 世界の肥満大国といえば、アメリカですが、アメリカの肥満の原因は、ハンバーガーやホットドッグ、ピザ、フライドポテト、スナック菓子などを清涼飲料水で流し込むような食生活にあります。
 ―― 要するに、ファストフード(ジャンクフード)ばかり食べているのが原因だと。
 幕内 はい。ジャンクフードは「精製された糖質」と「精製された脂質」の塊です。
 みんな分かってますよ、ジャンクフードばかり食べてたら太るとか、健康に良くないということぐらい。でも、分かっちゃいるけどやめられない。タバコやアルコールがやめられないのと同じで、ジャンクフードは食べることそのものがやめられなくなる。だから、私は「ドラッグ食」と呼んでいるのです。

(『明日への選択』平成28年9月号)