会の趣旨
学校給食と子どもの健康を考える会
私たち『学校給食と子どもの健康を考える会』は、子どもたちの健康のために、学校給食の米飯回数を増やし、学校給食を完全米飯化することを目標に結成されたボランティア団体です。
深刻になっている子どもの健康問題の背景に、食生活の問題があることがあげられています。一方で、米の生産調整、食料自給率の低下という農業・食料問題も指摘されています。
このような現状に対して、「食育」「地産地消」といったスローガンが耳に届いてきます。しかし、そこには具体的な提案がほとんど見えてきません。
今日の健康問題や農業問題を生み出した根本は、「ご飯を食べなくなった」事です。その解決策として、私たちは学校給食の「完全米飯化」があると考えています。全国で920万人の子どもたちが食べる学校給食の影響は余りに大きいものです。将来の食習慣を決める学校給食だからこそ「完全米飯」に意味があり、それは、日本人が当たり前の食生活を取り戻すカギになるのです。
「子どもたちの健康を守るためには、完全米飯給食の推進が真っ先に必要である」この事を日本中の多くの方々に伝えたるために、私たちは『学校給食と子どもの健康を考える会』を発足し、1998年の創立シンポジウムを皮切りに、全国で講演会やシンポジウム等を開催しています。
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運動の趣旨
急激に変化した食生活
食品の安全性について様々な問題が浮上している。狂牛病、遺伝子組換え食品混入、牛肉偽装表示事件、ミスタードーナッツ事件、協和香料化学事件、ほうれん草農薬残留事件、無登録農薬事件、放射性物質など。真剣に考えたら「何も食べられない」ということで無関心にならざるをえない状況になっている。
一方、健康問題も深刻である。ガン や糖尿病、心臓病、高血圧症など生活習慣病は年々急増し、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患も蔓延している。さらに肥満児が激増し、生活習慣病は年々低年齢化している。「2013年国民健康・栄養調査」の結果によると、糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる者)の割合は、男性16.2%、女性9.2%にも達している。
農業問題も深刻だ。食糧自給率はカロリーベースで40パーセントにまで低下している。これは先進国の中で最低の数字だ。もはや日本は砂漠のような食糧自給率の国になってしまったのである。
食品の安全性、健康、医療、農業、食糧など。一挙に問題が浮上しているわけだが、それらは別々に語られ、論じられていることが多い。しかし、真剣に考えてみると、背景には同じ問題が絡んでいることがわかる。
それは食生活の急激な変化だ。私は医療機関でたくさんの乳がんの患者さんと接してきた。他の患者さんに比べ若い人が多くなっている。そして、これらの人たちの食生活はかなり特徴的だ。わかりやすく言えば「カタカナ」だらけの食生活。例えば、朝食はパンにバターを塗り、サラダにドレッシング、ハムエッグ、ヨーグルト。昼食はサンドイッチかスパゲティ。三時のおやつにはクッキーかケーキにコーヒー。夜はご飯にハンバーグ、スープ、サラダにドレッシング。しかも、ほとんどの患者さんは、この食生活をそれほどひどいとは思っていない。朝食がドーナッツと牛乳などという全く食事になっていない人も増えている。
私たちは長い間、穀類や芋類を主食とし、季節の野菜や豆類、海藻類、魚介類を中心とした食生活をしてきた。食生活に国籍があり、地方があり、季節があり、家庭の味があった。それが、戦後、この70年で急激に変化した。米の消費が激減し、輸入小麦粉(パン、スパゲティ、ラーメン、ピザ、菓子類、スナック菓子など)や、バター、マーガリン、植物油などの油脂類、砂糖を含めたさまざまな甘味料、牛乳・乳製品、肉・食肉加工品などが急速に増えた。これだけ短期間に食生活が急変した国は、世界中を探してもないだろうといわれている。
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栄養改善普及運動
これらの背景には、栄養改善普及運動(食生活近代化論)があった。戦後の栄養教育や保健所などの行政機関がそれを推進してきたのである。特に、国民一般に影響を与えた言葉が、「ご飯は残してもいいからおかずを食べなさい」「タンパク質が足りないよ」「日本人はカルシウムが不足しています」「日本人は塩分が多すぎます」というものだ。この4つをひとまとめにすれば、「欧米の食生活が理想だ。日本食はダメなんだ」という日本食・伝統食の崩壊運動だったとも言える。別の言葉でいえば、「食文化」の否定運動だった。欧米型食生活の推進だから、今の若い人が“カタカナ食生活”に疑問を持たないのも当然のことだ。
平成14年、日本は約1620万トンものトウモロコシを輸入している。同年、小麦の輸入量は約560万トン、米の生産量は約990万トン。トウモロコシと小麦粉の輸入量だけで米の生産量の倍以上にもなる計算だ。もちろん、私たちが直接それだけのトウモロコシを食べているわけではない。ほとんどは牛や鶏などの飼料として使われている。あるいは、異性化糖などだ。小麦はパンや洋菓子、めん類、スナック菓子などに利用されている。
かつて、私たち日本人は、米食民族だと言われてきた。しかし、昭和55年、米の生産量をトウモロコシの輸入量が上回るようになる。その年から、私たちはトウモロコシ食民族になってしまったのである。
肥沃な土地、温暖な気候、飲料に耐える豊富できれいな水。日本は豊かな自然条件に恵まれ、1億2千万人の胃袋を満たす主食、米がありながら、その生産調整を続け、世界の穀物市場から経済の力を頼りに大量のトウモロコシを買いあさり、肉、食肉加工品、牛乳、乳製品をむさぼり食べているのである。そのトウモロコシは、飢餓に苦しむ国々の主食になる食料だということを忘れてはいけない。
大きく見たとき、戦後の栄養改善普及運動の失敗は明らかである。その結果が食品の安全性の問題や健康、医療、農業、食糧問題として現れ始めたのである。
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学校給食の問題
そして、戦後の栄養改善普及運動の「象徴」が学校給食だ。私は昭和28年に茨城県で生まれた。その当時は、どの家庭の朝食もご飯とみそ汁、漬け物、納豆くらいのものだった。パンや菓子パン、シリアルなど食べている家庭はほとんどなかったはずだ。おやつにもおにぎりを食べた。米の生産調整など必要がないほどたくさんのご飯を食べた。現在は朝食にパンを食べる家庭がどんどん増えている。それを普及させたのはファスト・フードではない。学校給食だ。私の小学校時代の給食はコッペパンと脱脂粉乳だった。はっきりした記憶はないが、一度もご飯はなかったと思う。当時は食糧事情もあり仕方なかったのかも知れない。しかし、その後、米は増産されてもパン給食は続いてきた。現在でも全国平均で週5回のうち、ご飯は3.5回しかない。残りは輸入小麦粉のパンや麺類がほとんどだ。米の生産調整をしながら、成長期の子どもたちに輸入小麦粉を食べさせ続けているのである。まさに、この70年の栄養改善普及運動とは、何だったのか。日本人の健康や農業、食料問題にとって、どのような役割を果たしてきたのか。その評価と総括がなされていない。このままで、一体、どのような「食育」をしようとしているのか。疑問を持たざるをえない。
私は約三十年間、医療機関で患者さんの食事相談を担当してきた。どのくらいの患者さんとお会いしたか、数え切れない。そこで感じることが2つある。ひとつは、成人の食事指導は非常に難しいということだ。完全に味覚が形成されてしまった成人が食事を変えることは容易ではない。成長期の子どもにこそ、食の教育が欠かせないということ。もうひとつは、家庭の食事を変えることは難しいということ。評論家の人たちが、「家庭の食事の乱れ」を指摘している。「個食」、「朝食を食べない子ども」、「ファスト・フード食」の問題点など、まさに指摘の通りだと思う。だが、問題だらけの食事を、どのように指導しようとするのか。たとえば、「個食」は大きな問題だが、これは社会そのものの問題だ。問題点を指摘するのは簡単だが、それを変える具体的な提案があるのだろうか。幼児期の子どもにさえ、朝食を作らない親がいるわけだが、そのような親にどのような指導ができるというのだろうか。残念ながら、具体的な提案は中々見つからない。実際に嘆くだけで終わってしまっている。
私は、具体的な改善策、「食育」のもっとも有効な場は、学校給食以外にはないと思っている。何しろ、学校給食を食べている子どもは920万人もいる。
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子どもの健康とパン給食
ただし、学校給食にも予算もあり、手間の問題もある。そんな中でもっとも有効な食教育は、パン食をやめて、すべてご飯にすることが早道だと考えている。パン給食をご飯にすることで多くの問題が解決できるのである。すべての問題が解決できるわけではないが、かなりの部分が解決できる。
これはあくまでも、「食育」、子どもの健康のための改善策であって、余剰農産物処理場と考えての案ではない。子どもの健康を第一に考えた給食を実施すれば、そのことが農業や食料問題にも繋がってくると考えている。
現在、我が国の小麦粉の自給率は14%しかない。したがって、学校給食に使われる小麦粉のほとんどは輸入に頼っている。保存、輸送のためにポストハーベスト農薬が使用されている。ポストハーベスト農薬とは、収穫後の小麦に直接まく農薬のことだ。田圃や畑で使われる農薬は、雨や風などですべて農作物に付着するわけではない。ポストハーベスト農薬は小麦に直接まかれるのでその量は比較にならない。
また、米と違いパンは加工食品だから食品添加物も心配しなければならない。パンにはマーガリン、バター、ジャム、マーマレードをぬる場合が多い。それらもまた加工品だから食品添加物の心配がある。仮にパンを朝食にしたメニューを考えると、パンにマーガリン、牛乳、サラダ、ハムエッグという献立が思い浮かぶ。パン、マーガリン、サラダのドレッシング、マヨネーズ、ハムが加工品だ。当然、食品添加物が使われる可能性が高い。ご飯の場合を考えてみると、みそ汁、漬け物、焼き海苔、ほうれん草のお浸し、鮭の切り身という献立が一般的だろう。食品添加物が使われている可能性があるのは漬け物くらいではないだろうか。食品の安全性という面でパンには問題が多い。ご飯を主食にすれば危険性は極めて低くなるのである。
かつて小学校の給食の時間に早食い競争をして、パンが喉に詰まり窒息死する事故が起きたことがある。高齢者でもパンが喉に詰まる事故がある。ご飯やうどん、そばなどは水分が60~70%ある。それに比べてパンは水分が30%程度しかない。そのため喉を通りにくくなることがあり、起きた事故だ。食パンなどをそのまま食べると、パサパサと感じるのはそのためだ。
パサパサ感というのは、食べ物をまずく感じさせる。それを美味しく食べるには、パンに唾液を吸収されないことが必要になる。具体的には口腔の粘膜に油脂によるコーテイングをする必要がある。だから、マーガリンやバターを塗ると美味しくなるのである。クロワッサンなどは最初から油脂類が20%以上も含まれているため、何も塗らなくても美味しく感じるのである。
副食についても同じ事が言える。野菜料理はサラダ(ドレッシング・マヨネーズ)か野菜炒めが多くなる。ほうれん草のお浸しや里いもの煮つけでは美味しくないのである。ハムエッグ、目玉焼き、スクランブルエッグ、これらもまた油脂類が使われる。無理に魚介類を食べようとすると、ツナ缶か白身魚のフライになるだろう。現代の食生活の最大の問題点は油脂類の過剰摂取による「脂肪過多」と「精製糖」にあることは常識になりつつある。その最大の原因はパン食にある。パンを主食にしたら、脂肪を減らすことはできないのである。
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パンには季節の野菜も魚介類も合わない
また、現代の食生活には季節感がなくなったという指摘もある。これもまたパン食が最大の原因だ。一年で食卓にもっとも季節を感じるのは春だ。セリのごま和え、うどの酢味噌、きゃらぶき、ふきみそ、のびるのぬた、菜の花の辛し和えなどが美味しいが、すべてパンには合わない。冬野菜の大根、ごぼう、白菜、かぶ、ねぎなども合わない。パンに合うのは季節に関係のない野菜炒め、サラダなのである。
魚介類にしても、パンには初鰹やほたるいかは合わない。秋になればサンマの塩焼き、さばの味噌煮なども美味しくなるが、これらも合わない。お茶を飲む人が減って、コーヒーや紅茶が増えている。これもパン食が普及した結果だ。
パン食が、無国籍、無地方、無季節、無家庭の食生活を普及させてきたのである。それでも自己責任で大人がパンを食べるのは自由だ。問題なのは、安全性にも疑問があり、脂肪過多、無国籍、無地方、無季節の給食を「教育」という名の元に成長期の子どもが強制的に食べさせられていることである。
子どもの健康を本気で考えるなら、学校給食を「完全米飯」にすることである。そうすればかなりの問題が解決する。しかも、極めて実現可能なことなのである。実際、公立の小中学校は約3万校あるが、約2200校はパンのない「完全米飯給食」を実施するようになっている。
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米粉パン無策
成長期の子どもたちにきちんとご飯を食べさせる。特別なことではなく極めて当たり前のことだと思う。だが、それに相反する動きがある。それは米の粉で作ったパンだ。米で酒を作ろうが、せんべいを作ろうがパンを作ろうが自由だ。問題なのは、米粉パンを学校給食に導入しようとする動きだ。
ほとんどの場合、県や市町村の農政課がすすめている。米粉パンで米の消費拡大しようという考えらしい。前にも述べたが、ご飯の消費が減った最大の原因はパン給食にある。それにも関わらず、材料がなんであれ再び子どもたちにパンを食べさせようとしているのである。
世界的にご飯食が見直されている。その理由はご飯が「粒食」だということにある。粒食は粉食とちがい消化吸収がおだやかだ。そのため食後の血糖値上昇もゆるやかになる。わかりやすく言えば、極めて糖尿病の予防に有効だということだ。米の良さは「ご飯」という粒食にこそ意味がある。米粉パンはその長所を無視したものだ。
そして、材料は何であれ、パン食は「油脂依存型」の食生活になる。そのことが現代の子どもたちの大きな健康問題になっていることは明らかだ。しかも、パン食には国産の野菜も魚介類も伝統的な加工食品も合わない。かつて、学校給食に初めて米飯が登場した際、一部の教育学者などから「農業団体は学校給食を余剰農産物の処理場としか考えていない」という批判を受けたことがある。米飯給食のどこが余剰農産物の処理なのか理解できないが、批判を受けても仕方のない面がある。
米粉パンの味を覚えた子どもは、将来ふわふわの輸入小麦粉のパンを好むようになるだろう。こんな暢気な話があるだろうか。こんなことに一体、どれだけの予算を使っているのか。本当に米の消費拡大を考えるなら、給食を食べている920万人の小中学生に「ご飯」をきちんと食べさせることに本気で取り組むべきなのである。
「食育」の必要性は言うまでもない。だが、学校給食では現在でも、約30パーセントも輸入小麦粉を子どもたちに食べさせている。それだけではなく、米粉パンまで子どもたちに食べさせようといている。このような現状を考えると、何を「食育」しようとするのか、その意図が見えない。__________________________________________________________________________
「食育」を訴える教育関係者も「地産地消」を叫ぶ農業関係者も、スローガンを普及させることが目的になっている。具体的な提案を耳にすることはほとんどない。「総論」だけを叫んでいるほうが、楽だし簡単だからだろう。
このままでは、子どもの健康も農業も大変なことになる。スローガンだけを叫んでいる人たちに「本気になって欲しい」。その思いで、1998年、「学校給食と子どもの健康を考える会」を発足した。私たちは、「子どもの健康にとって、ご飯とパンはまったくちがう」ということを多くの人たちに理解してもらうための講演活動をしている。運動を始めた当時、「完全米飯給食」の小中学校は約900校だった。現在は3600校を越すようになった。幼稚園や保育園などは数え切れないほど変わった。より多くの方々の支援、応援、助言をお願いしたい。 (2015年10月20日 幕内秀夫) _________________________________________________________________________
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