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  学校給食は必ず変えられる

「母乳育児は『食』の原点」


第1回「おっぱいと食生活」Aya母乳育児相談室 助産師 坂本亜也子

 

母乳育児相談室開業10周年
 「三つ子の魂百まで」ということわざに影響を受け、乳幼児期に携わる仕事をしようと助産師を志したのは、私が看護学生の時でした。その後、「母乳を享楽」することの大切さをフロイトの精神世界から学んだことをきっかけに、気がつけば母乳育児相談室を開業して10年目を迎えました。そして、多くの母子との関わりを通して、新たな気付きを得させてもらう毎日を送っています。


母乳育児こそ少子化対策!? 
 現在の日本は、少子化が進んでいます。そして今、出産可能な年代に当たる女性たちは、人工乳全盛の時代に乳幼児期を過ごしました。そのため、母乳をしっかり飲んで育ったとは言い難い人が多くなっています。
 私は最近、もしかすると、それが少子化の原因のひとつなのかもしれないと思うことがあります。母乳に比べ、人工乳には足りないものが1000種類以上もあると言われています。それらの成分としては、免疫・ホルモン・酵素などになりますが、私はそれに加え、1日8回×365日×約2年として約6000回の授乳を通した「親子の対話」の不足が、何よりも影響しているのではないかと思うのです。母乳を飲み摂るということが、人間として生きる術を学びとっているかのように感じるのです。


母乳育児は家族の健康を導く
 母乳の質(温度・味・色・濁り)や湧き方に影響を与えるのは、母親の体質と食生活です。このうち、体質はそう簡単には変えられませんが、食生活を見直すことは比較的容易で、早く効果が出やすいです。母乳育児相談室には、分泌不足や分泌過多、乳腺炎などのトラブルを抱えたお母さんたちが来られるので、乳房ケアと授乳方法のアドバイスはもちろんのこと、母乳の質を良くしてトラブルを防ぐための食生活指導も欠かせません。そして、お母さんたちは、乳房が変わり、食生活を変えることにより自分の乳房のトラブルが減り、乳質が変わっていくことを感じます。そして、それを飲み摂る子どもの体調や機嫌がよくなっていく様子をみて、次第に乳房ケアと食生活の重要性に気づいていきます。このように、食生活が与える影響の大きさを実感しやすい授乳期ほど、食生活を改めるのに向いている時期はないと思います。そして自分の食生活を改めることは、同じ食事を摂る家族の食生活の改善にもつながります。また、和食であれば、赤ちゃんの離乳食も母親の食事から取り分けができるので、育児や家事の負担軽減にもつながります。まさに、母乳育児は、母親と赤ちゃん、そして家族みんなが健康的に過ごせるコツを見つけ出すとてもいい機会なのです。
 私は、母乳育児につまづきくじけそうになるお母さんに、最近こう言っています。「子どもとの関わり方を見直すいいきっかけができて良かったですね。食生活も見直せて、家族みんなを健康にするための勉強の機会を、赤ちゃんとおっぱいが与えてくれましたね。」と。


給食それでいいの?
 母乳相談室を卒業していった子には、もう小学生となる子どももいます。その子たちの給食の内容を聞く機会が増え、驚きました。菓子パンや冷凍食品、さらにはスイーツまで出ているというではありませんか。いくら良質な母乳でじょうぶな体づくりをしてきたとは言え、小学生はまだまだ成長過程です。島根県は子育て中の母親の就業率が全国1と高く、義務教育の9年どころか保育所時代も含めれば15年近く、給食を食べることになるのです。家庭での食事が第1とは言え、15年はとても長い。ここから、私の給食改善に向けた取り組みがスタートしたのです。    (つづく)
 

第2回「母乳は人生で初めて食べる食事」
          Aya母乳育児相談室 助産師 坂本亜也子
 
母乳は「一汁三菜」の和食の基本
 母親の乳房から母乳を飲み摂ることと、人工乳を哺乳瓶で飲むための動きは同じように見えるかもしれませんが、実は大きな違いがあります。まず、哺乳瓶で人工乳を飲む場合、赤ちゃんは瓶に貯まった人工乳を始めから最後まで一定のリズムで飲みます。それに対して母親の乳房から母乳を飲み摂る場合は、まず赤ちゃんがアムアムと口を動かして小刻みに乳頭・乳輪を刺激し、それを2~3分続けることでようやく乳房の奥から乳汁が湧いてきて母乳が飲めるようになるのです。そして1分くらい、赤ちゃんは乳房の奥から湧いてあふれてくる母乳を、顎を大きく動かしゴックン・ゴックンとリズミカルに飲み摂ります。この際、母乳の出る量は一定ではなく、最初はじわじわ、途中たっぷりと湧いて出るという状態を繰り返します。この、「じわじわ」を経験することで、赤ちゃんは「待つ」ということを体得しているかのように思えます。そう考えると、授乳はまさに「親子の対話」。赤ちゃんは授乳を通して、人とのコミュニケーションを学んでいるのではないかと感じます。  
 味についても、人工乳の味は始めから最後まで同じ。けれども母乳は、飲み始めはあっさりとした味で、飲み終わりは脂肪分たっぷりと1回の授乳の間に味が変化します。さらに、左右の乳房、そして各乳房に約10本ずつあるお乳の出口から湧く母乳は、すべて出方も味も異なっているのです。例えるとするなら、人工乳は「単品料理」、母乳は「一汁三菜」に代表される和食の基本に似ているように思います。このように、母親の乳房から母乳を飲み摂るということは、空腹を満たすだけでなく、日本の食生活を学び、さらに親子の絆を深めつつ、社会性も身につけることのできるすばらしい体験と言えると思います。


最初のひとくちは「母乳」であってほしい
 約15年前、私が病院で助産師として勤めていた頃は「テスト哺乳」というものがありました。これは、生まれてすぐは何も与えず飢餓状態にして、生後8時間後に糖水を10㏄与え、嘔吐などの症状がないかをテストする方法です。今では考えられないことですが、これがごく普通の管理方法でした。現在は、むしろ早期授乳の大切さが見直され、生まれたらすぐに母親の胸に抱かせ、赤ちゃんが自分で母親の乳房を探し、できるだけ早く授乳を開始することが基本になってきつつあります。
そして、生まれたての赤ちゃんに、母乳より先に人工乳を与えてしまうことは、赤ちゃんのアレルギーや病気を引き起こす原因をつくることが分かっています。やはり、赤ちゃんには可能なかぎり母乳がいいのです。未熟な赤ちゃんの腸内環境は非常にデリケートです。生まれたての赤ちゃんの最初のひとくちは、ぜひ「母乳」であってほしいと思います。 
 また、赤ちゃんに母親の乳首より先に人工の乳首を与えてしまい、赤ちゃんは母親の乳首を拒否して泣きわめき、母乳育児が難しくなってしまうケースをしばしば目にします。カルガモの赤ちゃんは最初に見たものを「母親」と認識し後を追います。それと同じように、赤ちゃんは最初に口に入ったものを「おっぱい」と認識してしまうのでしょう。お母さんにとって、自分の乳房を拒否され母乳を飲んでもらえないことは、非常に悲しくつらいことです。楽しい母乳育児のスタートをきるためにも、やはり最初のひとくちが「母乳」であることが大切なのです。


美味しいおっぱいが一番
 下の写真が何か分かりますか?(写真1)これは、母乳の中から出てきた「乳栓」と呼ばれる塊です。乳栓は、石のような塊・チーズ状・湯葉状などさまざま・・・。これらの原因のひとつが「パン食」です。まだ、離乳食も食べていない赤ちゃんがこの塊を飲むわけですから、赤ちゃんにとっては危機的なことです。このとき赤ちゃんは乳首を引っ張ったり、噛んだりして母乳を嫌がります。乳房手技を施し、乳汁の流れをよくすると、途端に赤ちゃんの飲みっぷりは改善します。また、それと共に、お母さん方に「ごはん食」に改めて頂くと、この塊はできにくくなり乳房トラブルを減らすことにつながります。
 赤ちゃんは、あっさりとしたほんのり甘いおっぱいが大好きです。おっぱいしか飲まない赤ちゃんにとって、母乳の乳質の良し悪しは最大の関心事です。お母さんも美味しいものが大好きなように、赤ちゃんにも美味しいおっぱいを飲ませたいですね。(つづく)

第3回「どんどん変わる山陰の給食」
            Aya母乳育児相談室 助産師 坂本亜也子

助産師からみた学校給食
 助産師は主に妊娠・出産・産後に携わる仕事です。しかし、女性が心身ともに健やかに妊娠・出産を迎えるためには、それまでの身体づくりが重要です。そのため、助産師は誕生から乳児期・幼児期・学童期・思春期のそれぞれの過程での心と身体の発育を重要視し、そして健康教育を行います。
 主には、多くの赤ちゃんたちができるかぎり自然に産まれ、可能なかぎり母乳を飲むことができるようにお母さんと赤ちゃんに寄り添ったケアを心がけています。乳児期以降は、子ども達は家庭から少しずつ集団の場に世界が広がっていきます。お母さん達は家庭という小集団から、保育所・幼稚園・学校という集団生活の中で、自分の考えだけではどうにもならない壁にぶつかることがあります。
 そのひとつが「給食」の壁です。助産師としても、やはり、子どもの心と身体の健康を考えると、給食の役割の大きさを感じます。もちろん食事は家庭が基本ですが、保育所時代を含めると15年間、子ども達は「給食」のお世話になります。この15年という年月を考えると軽視はできません。そして、大人とは違います。成長期の子どもの心と身体をつくり、また教育の場としても給食の果たす役割は大きいと感じます。
 助産師として、将来、「産み」「育てられる」ことのできる心と身体を育めるよう、完全米飯給食の推進を願ってやみません。


まずは講演会をやってみよう!
 私は、島根県松江市で母乳育児相談室を開業して10年が経ちました。2人目・3人目も相談室に訪れ、良質な母乳で子どもを育てたいと通って下さる方も多くいらっしゃいます。当時、赤ちゃんだった子ども達も学校給食のお世話になるお年頃。最近、給食の話題が増えてきて、山陰の給食事情を多く耳にする機会が増えました。関心を持ち始めた私は、山陰両県の給食の献立表を集められるだけ集めてみました。すると、鳥取県の米飯週4回に対して、島根県は3回。お味噌汁の回数が非常に少ないのに驚きました。山陰はほぼセンター給食ですが、大変驚いたのはごはんが外注であることです。主食であるはずのごはんを炊く設備がないとは驚きでした。
 以前から幕内秀夫先生の講演会が開催されればと願っていましたが、色々なご縁が結ばれ講演会を運営する立場になり、山陰の皆さんに幕内先生の御講演を聞いて頂く機会がもてました。素人が講演会を開催するなど思ってもみませんでしたが、完全米飯給食を願い必死でした。おかげで毎回300名前後の方に聞いて頂くことができました。
 幕内先生の講演会を開催することは、非常にハードルが高いことです。けれど、先生は大変親身で良心的ですし、講演会を開催することで仲間が増えることは大変心強いことです。ぜひ、全国各地のお母さん方は立ちあがってみて下さい。ひとりの力は小さいですが、講演会開催をきっかけにきっと実は結ばれることでしょう。


完全米飯給食が山陰にも誕生!
 島根県益田市が4月から完全米飯給食がスタートしました。また、お隣の鳥取県境港市もこの秋から完全米飯給食がスタートします。
 なんとも嬉しいビッグニュースです。そして、保育所では、完全米飯給食を取り入れた施設や米飯の回数を増やした施設がどんどん増えてきました。嬉しいのは公立保育所にその傾向が多くなったことです。
 完全米飯給食は、いいお産、そしていい育児にもつながる大切な教育のひとつです。山陰の子ども達の未来のために、そして、日本の子ども達のために、よりよい給食を今後も追求していきたいと思います。(おわり)

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