学校給食の裏面史
「アメリカ小麦戦略」鈴木猛夫
学校給食の裏面史 「アメリカ小麦戦略 No.7」(前編)
昭和30年、日本はアメリカ側の提案による粉食奨励、定着化を図るための11項目の事業計画書を承認した。金額の多い順から ①粉食奨励のための全国向けキャンペーン費用として1億3千万円 ②キッチンカー製作、食材費用に6千万円 ③学校給食の普及拡大に5千万円 ④製パン技術者講習に4千万円 ⑤小麦粉製品のPR映画の製作、配給に3千3百万円 ⑥生活改良普及員が行なう小麦粉料理講習会の補助に2千2百万円 ⑦全国の保健所にPR用展示物を設置する費用に2千百万円 ⑧小麦食品の改良と新製品の開発費用に2千百万円 ⑨キッチンカー運行に必要なパンフレット等の作成費に千5百万円 ⑩日本人の専任職員の雇用に千2百万円 ⑪食生活展示会の開催に8百万円、である。
総額4億2千万円の資金がアメリカ農務省から日本の厚生省、文部省、農林省、(財)全国食生活改善協会、(財)日本食生活協会、(財)日本学校給食会等などに活動資金として配分され日本人の主食を米から小麦へと方向転換させる大事業が実行されたのである。ただこの額はアメリカ側から提供された活動資金のごく一部で、その全体像は今もって明らかではない。当時の関係者はその額、使途、目的などを公表すべきだと思う。この点がタブーとされ伏せられている為、食生活欧米化の真の原因が分からず、従って食生活の改善も出来ないままでいる。
(おむすび通信No.7より抜粋)
学校給食の裏面史 「アメリカ小麦戦略 No.7」(後編) 鈴木猛夫
戦後の日本人の食生活欧米化の発端は巨額な費用を注ぎ込んだアメリカ側の見事な小麦戦略であり、それは予期以上の大成功を納めた。パンを主食とするとおかずは自ずと肉、卵、牛乳、乳製品という欧米型食生活になる傾向がある。それらの食材の提供先はアメリカでありそこにアメリカの真の狙いがあった。前号で書いたように東畑朝子先生が「みんな隠したがっている」こととはまさにアメリカ側の資金で戦後の食生活改善運動が推し進められたというあまり知られていないこの事実である。戦後の改善運動ではパン、肉、卵、牛乳、乳製品等の摂取が勧められてきた。厚生省、栄養学者はそれらをバランスよく摂取するという欧米型食生活が正しいと信じ栄養行政に反映させ、栄養教育をしてきた。それは栄養学的にみて望ましいとされ(実際には大いに疑問があると筆者は思うが)、厚生省の管轄下にある各地の栄養学校ではそれらの食品の優位性が強調された栄養学が教育されてきた。「肉は良質な蛋白質である」「牛乳はカルシウムの吸収が良い」等々のように。しかし栄養学的に正しいから国民に教育してきたのだろうか。
昭和30年代のこれらのアメリカ側の強引な粉食奨励策をみてくると純粋に栄養学上というよりも、アメリカの余剰農産物処理という政治戦略によって推進されたのである。
食生活改善運動の理論的ささえとなってきたいわゆる現代栄養学を一生懸命教えてきた栄養学者にとっては、この日米一体となって推進してきた食生活欧米化の大事な原因についてはあまり栄養士の卵には教えたくないのが本音だ。だから現代栄養学の優位性をことさら強調する栄養教育が行なわれてきたのだと思う。国民にはもちろんキッチンカーに乗せられ一生懸命活動した栄養士、保健婦たちにもその資金の出所についてはほとんど知らされていなかったのである。「隠したがっている」事実こそ戦後最大の厚生省、栄養教育者のタブーであり、触れられたくないことなのだ。
(おむすび通信No.7より抜粋)