学校給食の裏面史
学校給食の裏面史 「アメリカ小麦戦略 No.10」(前編)
鈴木猛夫
戦後厚生省の粉食(パン)奨励策、キッチンカー運行、油いため運動等などの栄養改善運動を積極的に推進させ、食生活の欧米化に大きく貢献した厚生省栄養課長の大磯敏雄氏は米と麦に関して重要な見解を持っていた。その一端は前号でも紹介したが今回も氏の著書「栄養随想」から主要な点を引用したい。氏は「米中心の食生活は、最も簡易にして工夫を要せぬ生活となる故、思考、考案といったものからは自然と遠ざかる。即ち、科学的な工夫、発達といったものは進まなくなる」と述べている。
米作りは春の 苗代作りから始まり田植え、水の管理、田の草取りから秋の刈り入れ、そして脱穀、精米等など、朝早くから夜遅くまで村人総出の厳しい労働が続き、八十八もの手間がかかるといわれるほど大変な作業の連続である。
多くの農民が力を合わせ、知恵を出して協力してこそ豊かな秋の実りを迎えることが出来るのである。確かに味がいいからおかずは少なくてすむという面はあるが、「最も簡易にして工夫、発達・・・は進まなくなる」ものだろうか。その土地、その地方に最も適したまさに風土に合った種々の料理が作り出されてきた。「思考、考案から遠ざかる。即ち、科学的な工夫、発達といったものは進まなくなる」としたら各地に伝わる風土食、郷土食という素晴らしい日本の食文化は生まれなかったであろう。
(おむすび通信No.10より抜粋)
学校給食の裏面史 「アメリカ小麦戦略 No.10」(後編)
鈴木猛夫
大磯氏はさらに「勢い、生活は簡単、消極的となり、従って金もかからず金の要求も少ない。その結果は残念ながら、貧乏につながってくるのである。即ち、米を食うという生活は、人をして消極的になり、勤労意欲を消滅し、従って貧乏になる。貧乏になれば、肉や魚や野菜などを購(か)う力がないから、やはり廉い(やす)米ばかりをたら腹食うということになり、その結果は、必然的に睡気(ねむけ)をもよおし、思考する方向に頭脳が働かぬということになる」としている。
つまり米を食べると頭脳低下をきたすという訳で、これは慶応大学医学部教授の林たかし氏の迷著「頭脳」で述べられているいわゆる米食低脳論と同じ見解である。日本の戦後の栄養改善を積極的に推し進めた大元締めの栄養課長の見解がこのようなものであるとすると戦後の米よりも麦という粉食奨励策が熱心に推進されたのもよく分かる。つまり栄養課長自ら日本人は米ではダメだと言っているようなものである。日本人が永年苦労して作り続けてきた米が本当に頭脳低下の原因とは思えないのだが。
さらに氏は「この因は、この果を生み、米を食う習慣は貧乏と1つの環をなして回転しているように思われる。東南アジアにすむ10数億の米を作り、米を食う民族は、等しくこの運命にさらされていると思う」と述べている。あまりにも一面的な見方でにわかに承服出来ないが、さらに次号で取り上げざるを得ない重大な見解を氏は持っている。
(おむすび通信No.10より抜粋)